2016.05.01
少欲・知足
「世界一貧しい大統領」として有名になった南米ウルグァイのホセ・ムヒカ元大統領が来日して話題になりました。実は私はムヒカ元大統領については、4年前から大きな関心を持っていたのです。それは、2016年6月にブラジルのリオデジャネイロで開催された国連の「地球サミット」での当時大統領の演説でした。
その演説の中で大統領はこう述べたのです。「貧しい人というのは、金や物に不足している人ではなく、いくら持っても満足しない人のことを言うのだ」と。報道によれば、当時大統領はその給料の87%を国民の福祉のために寄付をしていたそうです。それというのもウルグァイの国民の平均収入が大統領の給料の僅か13%だからだとか。国のリーダーはその国民と同じレベルの生活をすべきとの考えだったのです。
私はこのことを知った時、ムヒカ元大統領はもしかして仏教徒ではなかろうかと思ったほどでした。お釈迦様は御入滅の時、弟子達への最後の説法の中で、人間が豊かな心で充実した人生を送るための極意である「八大人覚」を教示されました。その最初に出てくるのが「少欲」と「知足」という教えなのです。
曰く「多欲の人は利を求むること多きが故に苦悩もまた多し。少欲の人は無求無欲なれば則ちこの患(うれい)無し」と。また曰く「知足の法は即ち富楽安穏の処なり。(中略) 不知足の者は富めりといえども、而も貧しし。知足の人は貧しといえども而も富めり」と。
ムヒカ元大統領は当時からこのお釈迦様の御教えを忠実に実践されているのです。「世界一貧しい大統領」などではなく、「世界一清貧を貫いた、世界一心豊かなリーダー」だったのです。日本人として、また仏教徒として、遠い南米の小国のリーダーから改めて尊い教えに気付かされた春でした。
2016.04.01
現在のじぶんをもって、足れりとするなかれ
4月……若い人たちが、それぞれの新しい道に一歩を進める季節です。あと2年で完成から丁度60年になる東京タワーが、基礎工事中の頃の話です。新聞記者が作業員の人たちに問い掛けました。答えはさまざまです。
「別にどうってことないよ」「早く仕事を終えて一杯やりてぇな」「故郷で待ってる家族が恋しいよ」等々…。
そんな中で一人の青年が語りました。「俺は、こんな仕事をやらせてもらって嬉しいよ。世界一のタワーだもの。見るたびに、あそこのあの部分は俺がやった仕事だと言えるんだから、こんな誇らしいことはないよ」
聞いていて勢いと情熱のこもった気持ちの良い言葉です。そこには迷いも不満も打算もありません。人それぞれ、この青年のように勢いと情熱を持って今のことに打ち込めたらどんなに素晴らしいでしょう。
今年の新人の皆さんに次の名言を送ります。"現在の自分をもって、足れりとするなかれ"……ともすると、まあこれでいいやとか、どうせ私はこの程度と、自分に甘くしがちです。昨日より今日、今日より明日という向上心が実り多い人生を作り上げていくはずです。頑張れ新人!!
2016.03.01
涅槃会(ねはんえ)
旧暦2月15日。私たち仏教徒にとって忘れることのできない日。そうです、お釈迦様御入滅の日です。その時お釈迦様は、クシナガラ郊外の沙羅樹林の中で、頭北面西(ずほくめんさい-いわゆる北枕)の姿で横になり、80年の御生涯を閉じられました。そのうちの45年は、伝道の旅に明け、説法の旅に暮れた遊行の人生でした。
お釈迦様との最後の別れに集まってきた52類の生類に『なべて世は無常である。怠ることなく努力を続けよ』と言い遺されて静かに息を引き取られたのです。
それ故私たちは旧暦2月15日(今年の新暦では3月23日)を「涅槃会」と呼び、お釈迦様御入滅の様子が描かれた「涅槃図」という大きな掛け軸を本堂に掲げて懇ろにご供養いたします。「涅槃」とは生命の火が消滅し、真理の世界に帰還することを意味します。
ところで旧暦2月15日が必ず六曜中の「仏滅」だということはご存じですか? 仏滅は不吉な日として嫌われますが、日に良いも悪いもありません。要するに仏陀(お釈迦様)が入滅した日だから仏滅なのです。世にあるものすべてはいずれ滅するのだという無常の理を悟り、だからこそ、日々の一瞬一瞬を大切にして努力精進することを誓う日が「仏滅」の日なのだと理解しましょう。
安養寺では3月中1ヶ月間「大涅槃図」を本堂に掲げております。是非お参り下さい。
ちなみに旧暦4月8日は必ず「大安」です。何故だか考えてみてください。